by hkum

言語学論集11号 論文要旨


上野 善道「見島方言の複合名詞のアクセント」

萩市見島方言の8モーラ名詞のアクセント資料を提示し、その複合語アクセント規則について述べる。前部要素(X)のアクセントは関係せず、後部要素(Y)のアクセント情報で複合語全体(Z)のアクセントが決まるのが後部要素決定型である。Zの具体的な核の位置は、Y自身が複合語であるか、3ないし4モーラのA型であるか、2モーラ語の場合はその語種が何であるか、によって決まる。


熊本 裕「Thyai Pada-tsa関連于テン[門+眞]語二断片」

敦煌出土のコータン語写本 P 2031, P 2788 及び P 2898 (いずれもパリ国立図書館所蔵)及び Ch 00327 (旧インド省図書館 −現在は大英図書館の一部− 蔵)の解釈を行う。最初の3点は写真版が1971-1973年に出版されたのみで、全体としてその内容を理解しようとするのは初めての試みである。特に P 2031 と P 2788 が本来一つの写本の前半と後半であったことはイラン学者には知られていなかった。Ch 00327 は1968年に不十分な解釈が出版されているが、これが P 2898 と同一写本の続き部分であることは、今回初めて表面(コータン語テクストは裏面)の漢文経典の同定によって確認された。これらの写本の年代比定を行う序論、本文と英訳、主としてパラレル・テクストを扱う注釈からなる。


杉浦 滋子「日英語再帰代名詞の諸機能」

本稿では、英語と日本語の再帰代名詞は、論理式における束縛変項を表層言語で実現すること、特定の名詞句を強調すること、視点を表すこと、などを含む複数の機能をもつことを指摘する。さらに、再帰にせよ再帰でないにせよ、束縛変項の実現であるような代名詞は、英語においても日本語においても次の制限を受けることを主張する。(NAEC文とは、非動作主主語感情喚起文という文型を指す):

つまり、代名詞は、その果たす機能によって異なる制限を受けるという主張である。


岡田 英俊「日本語諸方言の音調体系の定式化 (2)」

すでに発表した (TULIP 10) 枠組みに拡張・修正を加え、それに基づいて、日本語の8つの方言の音調体系の定式化を行う。いわゆる真鍋式の6つの方言、並びに、金沢方言と高見島方言を取り上げる。


水野 正規「モンゴル語の再帰語尾の用法について」

モンゴル語は、名詞もしくは代名詞の後につく再帰語尾をもっている。再帰語尾が単文に現れるときは、その先行詞は必ずその単文の主語である。これに対し、複文の従属節内に再帰語尾が現れたときには、その先行詞は主節の主語でも良いし、従属節の主語でも良いとの判断を示すモンゴル語の話者がいる。


大野 仁美「串本方言の継続を表す助動詞 −『アル』・『オク』・『イル』−」

和歌山市最南端の町串本町串本には、動作の継続を表す助動詞が複数存在する。それは、いわゆる"継続態"を表す形式である「アル」、意思的な動作の継続(= 「意志継続」)を表す「オク」と「イル」が動詞に接続して用いられた場合(それぞれ「ヤル」、「ヨク」、「イル」)である。これらの意味特徴を体系的に表示すると以下のようになる。

 意志備え・保持着手
「ヤル」
「ヨク」±
「イル」

山部 順治「ベンガル語の動名詞句における語順」

本論は、ベンガル語(インド語派)の動名詞句に見られる語順の制約の1つを明らかにする。動詞の主格の項は、動名詞の名詞的な性質に依存する要素よりも、動詞から離れて位置してはならない。この事実は、古典的な枠組みと、現代言語学の両方から解釈を受けることが出来る。統率・束縛理論の立場から見れば、これは格付与の隣接条件の新しいパラメーター値として捉えることができる。


加藤 重弘「固有名詞の本性」

固有名詞は、認知上時空的に特化された存在者を固定的に指示する名詞である。普通名詞が、対立によって体系としてのラングをなし、シニフィエを有しているのと違い、固有名詞はそのような対立をなさないので、ラングに属さず、かつシニフィエを有しない。しかし、同一の指示対象を複数の固有名詞が指す場合は、それらは対立をなすので、シニフィエを有する。また、固有名詞専用の語彙が存在するかどうかは、文化的事情であって、固有名詞専用の語彙のない言語も存在する。"Monday"のような曜日名は、指示が完全に閉じていないので、固有名詞とみなさず、「疑似固有名詞(pseudo-proper nouns)」と呼び、区別する。また、指示が閉じていても、認知上そう捉えられなくなった語を、「準固有名詞(near proper nouns)」という範疇に分類する。多くの言語における「太陽」を表す語などがこれにあたる。


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