by hkum

言語学論集13号 論文要旨


上野 善道「青森市方言の複合名詞のアクセント規則 (1)」

X (前部要素) + Y (後部要素) = Z (複合語全体)で表される複合名詞のアクセント規則のうち、今回はYが3モーラ、4モーラ、5モーラ語以上の場合を扱う。まず、Zの核の有無はXの核の有無によって決まり、Yは関与しない。ただし、Zが7モーラ以上の長い単語、あるいは漢語・外来語からなる非日常語では、Xと無関係にZは有核型になる傾向がある。次に、Zが有核の場合の核の位置は、Yの語音構造と単独形のアクセントによって決まる。その意味で青森市方言は、Zのアクセント指定にXもYも関与する「XY型」の一種である。Yの語音構造は、その2モーラ目が「強」であるか「弱」であるかがポイントとなる。Zが切れ目のない1単位からなる外来語のアクセント指定についても取り扱った。


熊本 裕「続・コータン語韻文書簡について」

コータン語の手紙形式の詩を扱った前論文(TULIP 12)に続いて、同じジャンルに属するテクストを含むペリオ蒐集の敦煌出土2写本 P 2739 と P 2897 を扱う。これらはいずれも現在まで写真版が出版されたのみで、まとまった解釈は行われていない。H. W. Bailey, Dictionary of Khotan Saka, Cambridge 1979 に断片的に引用されている部分は、多くの場合誤った読み乃至解釈を与えている。本論文末尾にはそのような項目の一覧表を付す。


石山 伸郎「キナライア語の概観と民話テキスト」

本稿はキナライア語によるフィリピンの民話「サルとカメの話」を採録し、併せてこの言語の簡単な概観を提示するものである。キナライア語は、アウストロネシア語族に属するフィリピンの言語で、採録の民話は、土田滋教授担当の言語学演習「野外調査法」(東京大学文学部1992年度)において、同言語のネイティブ・スピーカーによって語られた。


杉浦 滋子「『ぼくはうなぎ』と『ぼくはうなぎを』」

「A は B」型の文で同一文でないものは、うなぎ文と呼ばれている。杉浦(1991)は、performativeなうなぎ文において「だ」が不適切なことを指摘し、それを根拠として、うなぎ文は述語の消去によって生成されると主張した。しかし、ここではうなぎ文と「A は B + 格助詞」型の文を比べ、後者は述語の消去によって生成されるものの、前者はそのままの形で生成され、二つの集合間の多対一対応を表すものと主張する。


田口 善久「中国語の随意的に用いられる"了"について」

現代中国語のアスペクト辞"了"が文中で用いられても用いられなくてもよいという現象がある。本稿はその条件の分析を通して、結果・方向補語といわれる成文に"了"と同様の意義特徴を設定することによって、この現象が説明できることを示す。


吉田 朋彦「日本語指示詞の直示用法の使用条件」

指示詞コ・ソ・アについて調査した結果、指示対象の見かけ上の大きさを指示詞の使い分けの条件として提案する。見かけ上の大きさが大きい方がコ>ソ>アの順で用いられる傾向にあることを指摘する。指示対象が独立に指示され、また領域分割の大きさに関係していると考えることによって、対立型と融合型の区別を解消できると考える。


沈 暁文「上海語の基本音調パターンについて」

上海方言の複合語連続変調(tone sandhi of polysyllabic compounds)が興味のある課題として多くの学者によって研究されているが、複音節語の連続変調を論ずるには、まず単音節の声調(tone of monosyllables)について考察しなければならない。拙論では、従来五つとされている上海語の単音節の声調を「有声h」という音素を認めることにより2つの声調素に還元できることを論ずる。


月田 尚美「アミ語サキザヤ方言の概観」

アミ語サキザヤ方言の文法を概説した。アミ語は台湾で話されているオーストロネシア系の言語であり、サキザヤ方言はその五つある方言の一つである。


星 泉「チベット語ラサ方言の非完了・継続状態を表す動詞述語について」

チベット語ラサ方言の動詞述語のうち、三つの述語 V-ki ^y¨o¨o, V-ki ^tuu, V-ki ^yoo^ree (V は動詞)は、話し手が、叙述する事態を、完了せず継続状態にあるものとして捉えているという点で共通している。非完了の継続状態は、「進行中 (動作、作用または状態の持続)」「習慣・反復」「準備中」の三つに下位分類できる。この三つの述語は、基本的に、「事態の主体や事態の存在する場を、話し手との関係で内にあるものとして語るか、外にあるものとして語るか」、「話し手が事態を観察・経験して語るか、観察・経験を問題にしないで語るか、「話し手が自らの意志や意図を表出して語るか、意志や意図を表出しないで、または意志や意図がないものとして語るか」、「話し手が過程全体を良く知っていることとして語るか、一時的に観察・経験した範囲のこととして語るか」などの諸点を基準に使い分けられている。


野島 本泰「キナライア語における冠詞 sa と kang について」

キナライア語(Kinaray-a)は、フィリピンのパナイ(Panay)島で話される言語の一つで、アウストロネシア語族に属する。本稿では、キナライア語の冠詞sakangの用法の一部を解明する。冠詞saは場所や方向を示すだけでなく、行為の被動者をも示すことがある。冠詞kangも被動者を示すのに使われるので用法が重なり合うが、saはその被動者が特定のものであることを積極的に示すことがある点で、kangと異なる。


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