by hkum

言語学論集15号 論文要旨


上野 善道「名瀬市芦花部・有良方言の名詞のアクセント体系」

N型アクセントが多く報告されている琉球諸方言の中で、名瀬市の芦花部・有良両方言は Pn = 2n-1 の多型アクセントであり、下げ核と a/b 2つの式特徴で弁別される体系であることを述べる。この a/b の式特徴は語音特徴から新たに発生したものと考える。併せて、アクセント付き語彙リストも掲げる。


大場 美穂子「『〜てある』について」

日本語の「〜てある」は、「動作主体によって意志的に動作が行われた結果として存在する状態を述べる」表現である。この論文では、「〜てある」が表す「動作の結果」が2つあることを指摘し、それら2つの「動作の結果」とどのように関わるかで、「〜てある」を4つのタイプに分類できることを考察する。


杉浦 滋子「語の中心的意味と比喩的意味について」

ここでは、語には中心的意味、慣習的比喩的意味、非慣習的比喩的意味があること、そして中心的意味の要素である必須特徴と、慣習的比喩的意味の要素である付随特徴を区別するべきであると論ずる。さらに、語が比喩的意味で使われるときには必須特徴の一部(または全部)が抑圧され、付随特徴のうち少なくとも一つが実現されると主張する。


飯田 朝子「分類化とカテゴリー化:日本語分類辞『−ホン(本)』の意味特徴」

日本語の分類辞「−ホン(本)」で数えられるか微妙な名詞句に焦点を当て、日本語話者40名に行った言語調査の結果を参考に、その用法および意味特徴の記述を行う。「−ホン」の選定に関与する性質には、「細長い」という形状的なものが基底となり、更に@有生的ではないこと、A一次元の事物となるように閉鎖・密閉されていること、B細長部分が消耗性を伴わないこと、の3つが指摘される。


内海 敦子「インドネシア語の接尾辞 -nya の機能 −形容詞に後接する用法の意味の考察−」

本論ではインドネシア語の接尾辞-nyaが形容詞に後接した形を接頭辞ke-と接尾辞-anが形容詞を挟んだ形と比較した。両者には共通する分布もあるが、どちらかのみが許容される場合もある。接尾辞-nyaは幅広い分布を持つもので、名詞、動詞等にも、助動詞、前置詞等にも後接する。本論ではこの中で特に形容詞に後接する場合を取り上げ、形容詞から生じた二つの名詞形を比較することによって接尾辞-nyaの持つ意味を考察したい。


加藤 昌彦「ビルマ語の助詞 -ha_ の特徴について」

主語あるいは主題を表すとされるビルマ語の助詞-ha_の特徴を、同じく主語名詞句につくとされる助詞-ka.と対照することによって指摘した。本稿の考察により明らかになったことは、-ha_が文頭の要素につきやすいこと、従属節に現れにくいこと、主語と述語の間に従属節が現れたとき、その従属節が引用文である場合を除けば、主語が-ha_で標示されることが多いこと、主語以外の名詞句につきやすいこと、などである。


星 泉「チベット語ラサ方言の述語『動詞 + chun』の意味と用法」

チベット語ラサ方言における述語動詞chunは、「本動詞完了形語幹 + chun」という形で、完了した事態を表す述語を形成する。多くの先行研究では、この述語は話し手の身に起こった事態を表すものと記述されてきた。さらに一部の先行研究では、特定の文脈のもとでは他者の身に起こった事態を表すこともできるとされている。本稿ではこの述語が用いられる条件を明らかにし、この述語の持つ意味を考察する。


吉田 浩美「バスク語アスペイティア方言における能力・可能性を表す形式 −動詞述語 {V LEIKE}, {V-TIE EUKI}, {EZIN LEIKE}, {EZ EUKI}, {EZIN DU} の場合」

バスク語アスペイティア方言には能力・可能性を表す表現がいくつか見られるが、本稿ではそのうち、動詞述語 {V LEIKE}, {V-TIE EUKI} (V は動詞を表す)、その否定形である {EZIN LEIKE}, {EZ EUKI}、およびもっとも使用頻度が高いもう一つの否定の形式 {EZIN DU}について記述を試みる。


入江 浩司「現代アイスランド語の-st形相互動詞」

現代アイスランド語の-stという接辞(起源は再帰代名詞)をもつ動詞のうち、相互行為や相互関係を表すものを扱った。-st形相互動詞が用いられる文型は4つに整理でき、可能な文型の数によって動詞を分類した一覧を示した。その上で、分類と動詞の意味的特徴の傾向に相関があることを指摘した。また、そのことから一部の-st形相互動詞の歴史的な変化の筋道を推測できることも述べた。


湯川 恭敏「ツアナ語動詞アクセント試論」

ツアナ語は、ボツアナおよび南アフリカに話されるバントゥ系の言語であるが、この論文の目的は、そのうちのカタ方言について、動詞の不定形や直説法形その他さまざまな活用形のアクセントを記述することにある。


大方 グレイス 利江「ポルトガル語のCORTARの意味」

本稿はポルトガル語のCORTAR「切る」の意味の記述を試みるものである。記述方法としては、実際の用法からその手段、対象物の性質などを検討し、必要条件および十分条件を抽出し、動詞の通常の意味の定義に至る方針である。なお、明確な比喩的用法は考察から除外する。


加藤 重広「言語の体系性 −動的言語観と静的言語観−」

言語研究の方法論には、研究者の言語観が大なり小なり反映する。前世紀に優勢であった動的言語観は、言語を不完全な体系と見なすことが多く、対照的に、今世紀になって優勢になった静的言語観は、言語を完全な体系と見なすことが多い。しかし、現実の言語の体系は、体系として完全ではないと考えるべき証拠が少なくない。後者の典型ともいえる生成文法の手法をこの点で検証し、あわせて言語が不完全な体系性しか有しないことを示す。


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