by hkum

言語学論集16号 論文要旨


上野 善道「金沢方言の後部2拍複合名詞のアクセント規則」

後部要素が2拍からなる5拍以上の複合名詞のアクセントは、金沢方言の場合、[1]「無核型」、[2]核が前部要素にくる「前部核型」、[3]核が後部要素にくる「一般型(=後部核型)」に3分され、一部を除き、後部要素で型の所属が決まる。[3]の一般型のアクセントが事実上「拍構造」で決まる点が金沢方言の特徴である。

  1. 無核型: 無核型を形成する後部要素は、和語と漢語に少数あるだけである。ただし頻度は低くない。無核型の大半は、複合動詞から派生された名詞が占める。複合動詞由来の名詞は、後部要素の如何をとわず無核型になる。
  2. 前部核型: 前部核型を形成する後部要素はほとんどが漢語である。この複合語は-B型を基本とするが、その位置が特殊拍だと-C型となる。前部核型と見られる和語後部要素は少数で、しかも、前部要素が例外的に核を主張するものとの組み合わせで現われることが多い。外来語後部要素でこの型のものは極めて少ない。
  3. 一般型(=後部核型): (i)和語後部要素の大部分と(ii)漢語後部要素、それに(iii)外来語後部要素がこれに属する。(i)と(ii)はその後部要素の拍構造(2拍目が「弱」か否か)だけが、(iii)は後部要素の拍構造に加えて後部要素単独形のアクセントが、それぞれ分かれば、次の規則により複合語のアクセントが決まる:
    1. 後部要素が、2拍目が「弱」(○Mか○N”)、または@型の時: -○'○(-A型)
    2. 後部要素が、2拍目が「非弱」(○Wか@型以外の○N’)の時: -○○'(-@型)

杉浦 滋子「『〜なんだア』の機能と成り立ち」

文の一部が高く発音され、文末にかけて急激に下がるイントネーションをもつ「のだ」文(実際の発話では「んだ」と発音される)が新しい用法として注目を集めている。この論文では、このイントネーションを卓立音調と急激に下がる文末音調の組み合わせと分析し、この用法の新しさは、この音調の組み合わせが今まで付与されることがなかった「のだ」文に付与されるようになったことだと主張する。さらに、この用法の使用者と非使用者の間には、話し手と聞き手のどちらが述べられた情報についてより多くの知識を持っているかに関して認識のずれがあることを指摘する。


大場 美穂子「移動を表す動詞『行く・来る』の使用法について」

本稿では、移動を表す動詞「行く・来る」の使用法を、その意味と使用条件を区別しながら記述し、その上で、次の2点を主張する。

  1. 「行く・来る」の使用条件には、a) 出発点・到達点・移動主体の3者と話し手との物理的な位置関係に起因するものと、b) 出発点・到達点・移動主体の3者と話し手との心理的な関係に起因するものとの2つがあり、a) の方が b) よりも優先順位が高い。
  2. 三上章 (1953) では、「行く・来る」が指示詞や人称詞と同様「境遇性」を持つ語であると述べられているが、「行く・来る」が持つ「境遇性」は、指示詞や人称詞が持つ「境遇性」とは異なるものである。

飯田 朝子「分類辞の意味構造:日本語分類辞『−ホン(本)』の意味連鎖」

日本語分類辞「−ホン(本)」は、しばしば鉛筆や紐、棒などといった形状が細長い物を数える際に用いる分類辞としての性質に注目されがちであるが、「−ホン」の用法は実際の形状を持たない事物(情報・作品・項目等)にまで幅広い。本研究では、最近のメディアや広告、および一般発話で得られた例文を参考に、「−ホン」を例として「1分類辞 = 1意味核」で必ずしも全ての分類辞が成立しているのではないこと、分類辞によっては多義的であり、その複数の意味特徴が「意味連鎖」ともいうべきものをなしうることを主張する。


塩原 朝子「バリ語のApplicative Verbs」

バリ語には、いわゆるapplicative verbを形成する接辞 -in と -ang がある。本稿では、この接辞が付いた動詞の形態、意味、統語的特徴を記述する。


坂本 真由美「エストニア語共格修飾句の位置を決める2つの要因」

エストニア語の共格名詞句は、名詞修飾句として、主名詞の前に現れる場合と後ろに現れる場合がある。先行研究では、それ以上踏み込んだ研究はなされていない。本稿では、主名詞に対する共格名詞句の位置の決定に、(i) 主名詞の示す対象と共格名詞句の示す対象の間の「意味的密接さ」の違い、および、(ii) 文全体の述語動詞が持つ結合価、の2つが関わっていることを示す。


入江 浩司「現代アイスランド語の所有の動詞」

現代アイスランド語の所有関係を表す動詞のうち、eiga 'own', hafa 'have', vera medh 'be with' の3つを扱った。「所有者」と「所有物」の間の意味的関係のあり方ないし捉えられ方の違いが、述語動詞の選択と相関することに注目して「所有物」を分類し、その分類に従って各々の動詞の用法を記述した。


吉田 浩美「バスク語アスペイティア方言の助動詞 du / ditu による『非人称』について」

バスク語アスペイティア方言における「非人称」表現のうち、助動詞 du / ditu による形式を扱う。この形式は、気象・日照にかかわる自然現象、および、何かが「記されている」状態を表す表現にのみ用いられ、その中に現れる動詞は25に限られる。他の「非人称」表現と違い、動詞述語の表す内容を実現する「行為者」が想定できないか、あるいは、想定できても考慮の外に置かれているもので、動詞述語の表す現象・状態のみがクローズアップして述べられる。


湯川 恭敏「クワニャマ語動詞アクセント試論」

クワニャマ語は、ナミビア北部に話されるバントゥ系の言語で、オヴァンボ諸語の一つである。この論文は、この言語の動詞の不定形、直説法形、およびその他の形のアクセントを記述したものである。


大方 グレイス 利江「ポルトガル語の動詞 saber とconhecer の意味について」

「知る」を意味する動詞として、ポルトガル語にはsaberconhecerとがある。Saberは「ある事柄を知っている」ことを表わすのに対し、conhecerは「あるものそのもの自体を知る」ことを表わし、かつ「直接的体験を通して知る」ことを表わす。また、saberは「知らない」状態(ただし否定形の副詞とともに)と「既に知ってしまった」状態しか表わし得ないのに対し、conhecerは「知る」過程をも表わしうる。本稿は、sabercohecerのこのような意味の違いを明らかにし、それが統語上でいかに反映しているかを検討したものである。


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