by hkum

言語学論集17号 論文要旨


上野 善道「徳之島松原方言のアクセント調査報告 −用言の部(活用形その1)−」

松原方言の基本的な用言として動詞56語、形容詞9語を取り上げ、動詞は30種類、形容詞は11種類の活用形のアクセント資料を提示する。活用形のアクセントには、体言と用言基本形の枠には納まらない、複雑で興味深い現象が数多く現れる。今回は、終止形と連用形の関係を検討する。


胡 世光「漢語アクセント規則の再編成 −『モーラ』から『字』へ−」

漢語のアクセント規則についてはすでに多くの記述があるが、本稿は、モーラ(拍)を基準とする従来のアクセント記述法ではなく、漢字の「字」のレベルから、1アクセント単位をなす2字から4字の熟語のアクセント規則を再編成することをねらいとする。これにより、漢語アクセントは@型と-2字型の2つにまとめられ、記述がより単純になる。


飯田 朝子「日本語『ひとつ』『ふたつ』等の表現における"−つ"の意味と用法 −主要助数詞『個』『本』との比較を中心に−」

「ひとつ」「ふたつ」等における「つ」は、適当な個別助数詞がない場合に用いるいわゆる"代用助数詞"として扱われることがある。本小論では、主要助数詞「個」と「本」との用法の比較・置き換えを中心に、新聞や小説から得られたデータベースの例文を参照しながら、「つ」には意味分類機能があり、数詞に制限があるものの、助数詞としての扱いをすべきであることを主張する。


塩原 朝子「スンバワ語の概略」

スンバワ語は、オーストロネシア語族に属する言語の一つで、インドネシアの小スンダ列島(ヌサ・トゥンガラ諸島)の中のスンバワ島西部で話されている。本稿では、スンバワ島における言語の状況とスンバワ語の概略を記述する。


熊本 裕「『表音文字』の背後にあるもの −中央アジア・ブラーフミー文字の場合−」

文献資料は文字を媒介として言語情報を伝えるものだが、比較的忠実に音価を反映していると思われる「表音文字」の場合も、個々の文字の表面的な音価とその背後にある言語の音韻体系の間には乖離があることが少なくない。コータン語に用いられた中央アジア・ブラーフミー文字を例にして、不合理な文字の用法の背後に隠れる合理的な音韻体系を探る試みを行う。


千葉 庄寿「フィンランド語使役構文の被使役者を表す接格名詞句」

フィンランド語では、他動詞から派生した使役動詞を用いた使役構文で、被使役者は接格名詞句で現れる。類型論では、接格形の被使役者を伴う構文形態が典型的であるとされているが、接格形の被使役者が実際に出る頻度は非常に低い。本稿では、コーパスから採取した用例の分析を通じ、被使役者を表す接格名詞句が出にくい理由として、以下の3点を示す。

  1. 動詞の意味的な制限により、被使役者を表す接格名詞句をとって現れる使役動詞は数が限られる。
  2. 他動詞文から派生した使役構文では、被使役者が誰であるかを問題にする必要がない場合が多い。
  3. 被使役者を表す格としての接格の用法は、道具を表す接格の用法から完全に独立してはいない。

入江 浩司「現代アイスランド語の"John kissed Mary on the cheek"タイプの構文」

英語の"John kissed Mary on the cheek"と平行的な現代アイスランド語の構文を扱う。すなわち、他動詞の表す動作の対象の全体を目的語が表し、実際に動作を受ける部分をさらに前置詞句で特定するという構造をもつ文である。このタイプの構文で用いることができる動詞は、これまでの調査で約30見つかっている。本稿ではそれらの動詞をすべて挙げ、他の構文での用法と合わせて検討することにより、動詞の大まかな分類を行う。そして、上述の構文の各構成要素の現れ方を検討する。動詞の意味と前置詞や格の選択に相関があること、目的語が有情物でなければならないこと、感覚のある身体部分が最も適切であること、身体名称の修飾の種類に制限があること、等を論じる。


吉田 浩美「バスク語アスペイティア方言の<能格 NP 助動詞 du 活用>について」

バスク語の助動詞 du 活用は、能格と絶対格に呼応して語形変化するものだが、「能格NPと絶対格NPが考えられるとき」のみならず、「能格NPしか考えられないとき」にも現れる。いずれの場合も、能格で表されるものは「主体」である。前者で絶対格で表されるものは「対象」である。後者の場合に現れる動詞には、「対象らしきもの」を絶対格NP以外の要素で表すものもあり、そこではそうした要素で表されるものを、『「対象」とは言い難いが「対象に近いもの」』と看做していると考えられる。<能格NP 助動詞 du 活用>に現れる動詞は、『「対象」あるいは「対象らしいもの」に働きかけるという内容を表す』という意味的共通性を持つと解釈される。


湯川 恭敏「ンドンガ語動詞アクセント試論」

ンドンガ語は、ナミビア北部に話されるバントゥ系の言語で、オヴァンボ諸語の一つである。この論文は、この言語の動詞の不定形、直説法形、およびその他の形のアクセントを記述したものである。


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