by hkum

言語学論集18号 論文要旨


上野 善道「与論島東区方言の用言のアクセント −付 体言のアクセント資料−」

与論島東区方言の体言は昇り核を弁別特徴とする Pn = n + 1 の多型アクセント体系であるが、用言の基本形(終止形)のアクセントには偏りがあり、動詞は@(無核)型と-A型、形容詞は-B型と@型、のそれぞれ2つの型が基本で、他に@型など、若干の有核型がある。

動詞の活用形は基本形の「核の有無」を受け継ぐ。基本形が無核型だと活用形も無核型で通すが、「〜ていた、〜なかった」など「複合過去形群」は「@+ k」(k = 有核)の2単位形になる。基本形が有核型のものは活用形でも核をもつが、「核の位置」は活用形によって替わり、過去終止形と過去連体形の間でも異なる。無核型が2単位形の活用項目は、一般有核型も2単位形で「K + k」となる。3モーラ以上の有核@型は、(〜タリ形以外)核の位置の交代を示さず、@型で通す。2単位形でも「@ + k」となる。

形容詞の活用形も基本形の核の有無を受け継ぐが、その「核の位置」まで継承するので、動詞のような核の位置の交替は生じない。また、活用形のほとんどが2単位形になる点も動詞と異なる特徴である。

本文の後に、基本形と各活用形の詳しいアクセント資料を提示する。付録として、体言のアクセント資料も、類別語彙中心のものと、方言語彙中心のものの2種類を付す。


飯田 朝子「行為と出来事を数える助数詞:助数詞『回』と『度』の比較」

日本語では、行為や出来事を数える際に助数詞の「回」と「度」を用いる。これらは多くの場合、互いに置き換えが可能であるが、全ての場合において置き換えが可能であるとは限らない。本稿では、インフォーマント調査と併せ、最近の主要新聞の記事および見出しのデータベースを検索し、「回」と「度」の用法の違いを明らかにした。その結果、「回」は共起する接頭辞や数詞に制限を持たない助数詞であるのに対して、「度」は接頭辞「全」「第」とは共起しない、自然数(特に100以下のもの)に付くといった制限を持つことが確かめられた。加えて、「回」は定期的な継続・反復が期待・予測される行為や出来事を数える場合に多く用いられる助数詞であるのに対して、「度」は定期的な継続・反復が期待・予測されず、次回の行為や出来事を予測するのが困難な場合、あるいは予め行為や出来事の反復数が分かっていない場合に用いられる傾向の強い助数詞であることが分かった。


陳 南澤「韓国語の音素と音素連続に関する計量言語学的研究」

本稿では、韓国語の音素、音素連続、音節の頻度を、101,636音節のテキストから測定し、各々の単位に現れる制約と選好をみることにする。この研究を通して韓国語の音韻構造の量的な面が明らかになり、、他の言語に関する研究との比較により、言語の一般性と各言語の特徴を知ることができると期待される。


林 徹「ベルリン・トルコ語におけるドイツ語動詞成分の挿入」

トルコからドイツ各地に移り住んだ移民の人々の話すトルコ語には、ドイツ語の語彙の挿入が頻繁にみられる。ほぼそのままのかたちで挿入される名詞と異なり、動詞の場合は補助動詞の助けを借りてトルコ語に挿入される。トルコ語には et- と yap- という2つの補助動詞があるが、移民の人々の話すトルコ語では yap- の使われる頻度が高いと言われる。本稿では、ベルリンに住む20歳代から30歳代の10人のトルコ系移民の人々と行ったインタビュー調査に基づき、従来の説を検証するとともに、ドイツ語動詞要素の挿入を許容する度合い、および2つの補助動詞 et- と yap- の使用比率のそれぞれに、話し手の言語的背景が影響している可能性を指摘する。


笹原 健「ドイツ語の二重『話法の助動詞』構文の成立条件」

ドイツ語では、1つの節に複数の「話法の助動詞」(MV)が共起しうる。しかし、その共起は自由なものではない。本稿は MV が2つ共起する文が成立するための条件を考察するものである。おのおのの共起の適格性に関与しているのは、第一に当該 MV の意味で、特に伝統的に言われている客観的用法と主観的用法が重要な役割を果たしている。ほかに主語の人称、時制、極性も一部、適格性に関与していることを主張する。


杉本 浩一「古英語West-Saxon方言散文作品に見るmicel, manigおよびfela ('much, many')(名詞用法)の用法の異同について」

本稿は、古英語West-Saxon方言において、'much, many' を表す micel, manig および fela の用法の異同を、その名詞用法につき、文法および意味の両面から明らかにすることを目的とする。同方言による散文作品からの具体的な例文の検討を通じ、以下のような結論が得られる。

micel は、「量」を表し、集合的に用いられる場合、着眼点は集合全体にあると解される。また、micel は他の名詞との結合が緊密である(他の名詞への依存度が高い)と考えられる。

これに対して、manig は、「数」を表し、集合的に用いられる場合、着眼点は個々の構成員にあるものと解される。また、manig は、micel に比べ、他の名詞との結合が緩やかである(他の名詞からの独立性が高い)と考えられる。

一方、fela は、基本的に、micel と manig の中間的な性質を持つものと考えられる。ただし、単数で(属格語句(複数)と共起する場合であっても)「数」(または、「数」に関して partitive な関係)を表す用法をもつ点、ならびに、micel および manig よりも、その不定性が強いものと考えられる、という点に、fela の独自性を認めうる。


湯川 恭敏「ンバラヌ語動詞のアクセント」

ンバラヌ語は、ナミビア北部に話されるバントゥ語で、オヴァンボ諸語の一つである。本論文は、この言語の動詞の活用形ごとのアクセントを提示し、かつ、それらがどの程度規則的に決定されているかを検討する。


蝦名 大助「ケチュア語クスコ方言の-spa 節と-qti 節」

ケチュア語クスコ方言には、-spa 節と-qti 節という副詞的な意味を表す節がある。本稿ではこれらの統語的、意味的な違いについて考察する。従来-spa は同一主語、-qti は非同一主語を表すと考えられてきた。しかし実際には、-qti は同一主語の場合にも用いられる。-spa 節と-qti 節のどちらが用いられるかは、同一主語か非同一主語かではなく、意味的に決まるのだと考えられる。


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