by hkum

言語学論集19号 論文要旨


上野 善道「伊吹島方言の複合動詞のアクセント規則 −付 3モーラ体言のアクセント資料−」

香川県観音寺市伊吹島方言の複合動詞アクセント規則について述べる。この方言の「動詞+動詞」からなる複合動詞基本形のアクセントは、いずれも「無核型(0)」で、平進式(H)、下降式(F)、上昇式(L)の3つの「式」(レジスター)の対立をもつ。その式は、すべてその第1要素の基本形の属性から予測可能で、第2要素(以下)は無関係である。そのアクセント規則は次のとおり。

  1. 第1要素が1・2拍動詞で基本形が上昇式のものは、複合動詞は平進式になる。
  2. 第1要素が2・3拍動詞で基本形が下降式のものは、複合動詞は上昇式になる。
  3. その他の場合は、第1要素の式がそのまま複合動詞の式になる。

このうちa.は複合動詞の前部要素となる連用形が1拍で平進式をとる。b.は同じく連用形が2拍からなり上昇式をとる。したがって、「連用形」に着目すれば、d.のように「式保存」1つにまとめられる。

  1. 第1要素の連用形の式がそのまま複合動詞の式になる。各要素の核は無関係である。

本文の後に、4〜9モーラの複合動詞と、3モーラ体言のアクセント資料を付す。


鄭 恩禎「疑問文イントネーションにおける発話意図と音響要因 −若い世代の東京方言の『やる』を例に−」

本稿は、若い世代(特に、20代から30代)の東京方言の疑問文イントネーションについての実験音声学的研究である。疑問詞のない疑問文「やる」を例に、まず話し手の発話意図により現れるイントネーションパタンを記述する。そして、そのイントネーションパタンに基づき作成した合成音声を用いて知覚実験を行い、発話に対する聞き手の判断と音響要因の関係を調べる。

知覚実験の結果、(1)「判定要求質問」と(2)「確認質問」は、(a)文の出だしのピッチ、および(b)文の出だしと文末のピッチの差の2つが聞き手の判断に優先的に影響を与えることが分かった。一方、(3)「不満」は、発話持続時間を他の調査項目より長く伸ばすことによって他と区別していることが分かった。


西岡 敏「喜界島方言テキスト(1)」

喜界島・塩道方言の簡単なテキストを注釈付きで二つ掲げる。一つは、二人の話し手が互いに話のうまさを競い合う「賭け話」、もう一つは、男が、さらに儲けようと欲張ったため、汚れた家をきれいに掃除したのにもかかわらず、その家を売り損なった「蜘蛛の玉」である。


河須崎 英之「中国で話されている朝鮮語のアクセント」

中国で話されている朝鮮語の名詞句のアクセントについて、吉林省出身の話者(インフォーマントA)と、黒竜江省出身の話者(インフォーマントB)から採取したデータをもとに記述する。インフォーマントAはn音節の語に対してn+1のアクセント型を持つが、徐々に体形が崩れている様子も見られ、4音節名詞になると1種類のアクセントになり、区別がなくなるといってよい状態である。インフォーマントBはそれよりも型が少なく、韻律的なまとまり全体にかかるアクセントパターンが優勢になり、名詞そのもののアクセントが曖昧になっている。

最後に、A、B両方言と咸鏡道方言との比較も試みる


内海 敦子「バンティック語における形容詞と動詞」

オーストロネシア諸語の中には形容詞と動詞の区分が非常に曖昧、または区分自体が意味を持たない言語もある。スラウェシ島にもその種の言語は多く存在する。本論文ではバンティック語における形容詞と動詞に焦点を当て、両者を区分するに足る証拠があることを論じたい。第一に、動詞と形容詞の形態的特徴について述べる。第二に、両者の統語的特徴について述べる。第三に、動詞が時制によって形態が変化するのに対し、形容詞ではいかなる場合でも時制による形態変化がないことが、両者を区分する強い証拠になることを論じる。


児島 康宏「現代グルジア語における助動詞的な所有動詞」

現代グルジア語の所有動詞 akvs, hqavs は、所有者を表す与格名詞句と被所有者を表す主格名詞句の2つの名詞句のほかに、形容詞的要素をとることがある。その形容詞的要素が完了分詞の場合に、与格名詞句と主格名詞句が、所有者と被所有者ではなく、分詞の表す動作の動作者と被動作者を表す場合がある。その場合、動詞の所有の意味が失われていること、そして、さまざまな時間副詞と共起することの2点を以って、所有動詞が助動詞として機能していると指摘した。所有動詞は、助動詞的ではない場合、完了分詞の前にも、後にも置かれることが可能であるが、助動詞的にふるまう場合、完了分詞の前に置かれるというように、動詞の機能と語順との相関が見られる。


杉山 アイシェヌール「トルコ語の敬語動詞についての基礎的研究」

現代トルコ語の敬語としては、2人称代名詞の複数形や述語に付加される複数接尾辞が一般に指摘されてきたが、敬語動詞は、使える場面が限られていることもあり、これまでほとんど注目されてこなかった。本稿では、トルコ語の敬語動詞に注目し、その用法についての基礎的な記述を提示する。トルコ語の敬語動詞には、主なものとして、1) 動作主体を高める、2) 動作主体を低め、動作の受け手を高める、という2つのタイプがあり、それぞれ日本語の呼称にならって、本稿では尊敬語、謙譲語と呼ぶ。また、この両用法をあわせもつ語や、日本語の丁寧語に当たると見られる語もある。


上ソルブ語クロストヴィッツ方言の双数における動詞の一致

上ソルブ語の動詞の人称語尾は、双数においては二人称と三人称の間には区別がなく、双数においては -taj-tej の2つがある。標準語とされているバウツェン方言では、この区別は男性人間形(-taj )と非男性人間形(-tej )による、すなわち意味的な要因であるといわれているが、クロストヴィッツ方言においては、この基準は合致しない。本稿では、より使用範囲が狭い人称語尾 -taj が選択される場合を検討し、問題の方言では、-taj の選択の際には意味的な要因のほかに音韻的要因が働いている可能性を指摘した。


吉田 浩美「バスク語アスペイティア方言の助動詞diyo活用が現れる複合形」

バスク語アスペイティア方言における、助動詞diyo活用が現れる複合形について、与格の用法とともに記述を試みる。


杉本 浩一「Petersborough Chronicleにおける抽象派生名詞について」

本稿は、Petersborough Chronicleのうちpost-Conquest annals (1070 - 1154)に見られる、接尾辞 -nes(s), -scipe, -had, -hed, -dom, -raeden, -lac, -th(o), -th(u), -ung/-ing, -oth, -ath, -wist, -et(t) によって派生される抽象名詞につき、その特徴を分析する。考察の中心はこれらの接尾辞をもつ抽象名詞であるが、関連する単独語、複合語も取り上げる。分析の結果をまとめると以下のようになる。

  1. I (1070-1121), II (1122 - 1131), III (1132 - 1154) すべての部分に見られるのは、-scipe, -dom, -raeden, -th(o), -th(u), -ung/-ing をもつ名詞である。-nes(s)をもつ名詞は、I, IIにのみ見られ、IIIには見られない。-oth, -ath, -wist, -et(t)は I にしか見られず、その例も少ない。
  2. ある意味領域に属する語幹と各派生接尾辞(および複合名詞形成要素)との結合関係に関して、一定の傾向が見られる場合がある。
  3. ある特定の意味を表す名詞(派生語・複合語・借用語)が複数並存しており、かつ I, II, IIIの各部分でその分布を異にするケースが見られる。

湯川 恭敏「ガンダ語動詞アクセント試論」

ガンダ語は、ウガンダで話されるバントゥ語の一つである。本論文は、この言語の動詞の各活用形のアクセントを記述するものである。


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