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言語学論集23号 論文要旨


車 香春「朝鮮語龍井方言の名詞のアクセント体系」

中国で話されている朝鮮語龍井方言の体言のアクセント体系は、n個の音節に対して n+1 個のアクセント型をもち、提げ書く / ] / の有無と位置で弁別される。そしてこの方言には文節の概念が不可欠で、核の力は文節を超えては及ばないという特徴がある。複合名詞のアクセント規則は、最終構成素のアクセント型が全体のアクセント型になる。


江畑 冬生「サハ語(ヤクート語)の二つの『複数接辞』」

サハ語の「複数接辞」{-LEr}は、3人称複数を表す場合と名詞の複数性を表す場合とがある。本稿では2つの{-LEr}の意味的違いに対応して形態音韻論的な振る舞いの違いが見られることを指摘した。このことから、3人称複数を表す{-LEr}と複数を表す{-LEr}とが別の形態素であると主張する。


姜 英淑「西部慶尚南道方言のアクセント体系 -竹島・欲知島、忠武、晋州を中心に-」

本論文は、慶尚南道方言のうち、東部に位置する方言に比べ独特の現象を有する西部の方言アクセント体系を考察する。具体的には、西南に位置する統営方言(竹島・欲知島と忠武)のアクセント体系と、西中部に位置する晋州方言における若年層のアクセント体系を取り上げ、いずれも2音節語まではn+2個、3音節以上ではn+1個の対立数を持つことを述べる。そして、統営方言と晋州方言との音声的なあらわれの差は、晋州方言の方が先に変化を起こし、忠武方言がその後を追っているものと見る。


李 連珠「韓国語の漢字語及び漢字1字1字のアクセント -慶尚道大邱方言を対象にして-」

韓国語大邱方言において、漢字語をアクセントの面から一種の語形成を経たものと解釈し、そこにも大邱方言の語形成全般に働いているアクセント規則が適用されることを示す。なお、漢字語に「語形成におけるアクセント規則」が適用されているとすれば、漢字語を構成している漢字1字1字のアクセント型も予測できるようになる。この研究の意義は、現代大邱方言において漢字語のアクセント型を予測できるようになったことだけにとどまらず、音節単位でアクセントの表記をしていた中期朝鮮語と現代方言とを対等なアクセント表記を持って対応関係を示すことが出来るようになり、中期朝鮮語のアクセント体系を従来とは違う観点で解釈できる点にある。


マルチン ロッベーツ「日本語、韓国語、アルタイ語に関するスワデシュ 100 語リスト」

日本語の系統問題は国際的な比較言語学の論点の一つである。アルタイ語説をめぐる論争によく現れる主張は日本語と韓国語といわゆるアルタイ語に共通基礎語彙がないことである。この論文は方法論的、実証的な見地から共通基礎語彙がないという仮定を検討する。


長屋 尚典「タガログ語の記述句構文と文法関係」

本稿では、タガログ語の記述二次述語構文を記述し、どういう名詞句が記述句のコントローラーになり、それがどのように選ばれるのかという問いに解答を与えようとするものである。この問いについては文法関係に基づいたアプローチが一般的だが、このアプローチはタガログ語では事実と異なる予想をしてしまい、うまく機能しない。そこで、本稿では、意味論・語用論的なアプローチでこの問いに説明を与える。すなわち、意味論的にも語用論的にも際だった名詞句がコントローラーになるのである。記述句のコントローラーは役割関係的にも指示関係的にも際だっていなくてはならない。すくなくともタガログ語記述構文を捉えるのに、文法関係は不必要である。


孫 在賢「大邱方言における長母音の出現率と意識率」

本稿は、大邱方言の話者を対象(若い世代は両親も大邱出身)に、長母音の出現率、母音の長短に対する意識について調べたものである。その結果、若い世代になるにつれ、出現率及び意識率は低くなるものの、大邱方言は母音の長短が区別される方言であることが確認された。特にミニマル・ペアにおいては、若い世代でも長母音の意識率が高いことがわかった。


三村 竜之「デンマーク語音節構造の諸相」

本稿の目的は、デンマーク語の音節構造の記述にある。特に音節配列論と音節境界の設定に焦点を当てて論ずる。さらに音素配列論に関連して、聞こえ度の尺度に基づく音素配列に反する子音連結にも焦点を当てる。デンマーク語の音節が中核部と付属部から成り、聞こえ度の尺度が音節中核部にのみ適応されると仮定することで、問題点の解決を試みる。また、音節付属部は、音節量を規定し、それに基づき長母音と音節末子音連結との間に観察される共起制限に説明を与えるという点で、音韻論的に有意義な機能を有すると結論付ける。


梅谷 博之「モンゴル語の alga 『ない』について」

本稿では、モンゴル語の alga 「ない」の意味的・語用論的な特徴を論じる。まず、alga の用法のうち次の3つを指摘する。(A) 話者が探したり経験した結果、不在を認識する。(B) 存在が予想・期待されるものが不在である。(C) あるものが、一時的に不在である。

そしてこの3つの用法の共通点として、次の2つを指摘する。(I) 話者の認識においては当該のものの存在が完全には否定されていない。(II) 当該のものの不在を「話者の判断・認識によって明らかになったもの」として表現している。

最後に(I), (II)に該当しない用法があることを指摘する。それは、「現在あるいは将来において何かをする意図や予定」が話者に不在であることを表わす用法である。この場合、たとえその意図・予定の不在が一時的でなくても alga を用いることができる。


内海 敦子「バンティック語の接頭辞 ka-の意味・機能」

本論文では、インドネシア国スラウェシ島北部で話されているバンティック語の動詞の派生接辞の一つ、接頭辞 ka-について述べる。接頭辞 ka-は、形容詞を形成する語根、あるいは動詞を形成する語根に付加し、intransitive verb あるいは transitive verb を形成する。そして、「意図せずにある動作を行う」、あるいは「ある動作をすることが可能である」などの意味を表す。しかし、intransitive verb と transitive verb のどちらかを形成するか、それぞれの場合の意味は「非意図」と「可能」のどちらになるか、は語根の性質によって傾向が認められる。本論文においては、接頭辞 ka-が付加した動詞の語根の形態的特徴、そして語根のタイプによってどのような統語的特徴や意味的特徴が観察できるかを述べる。


上野 善道「日本語2型アクセントの3種」

2型アクセント(A型/B型)をもつ鹿児島県内の3方言(鹿児島市方言、枕崎市方言、黒島大里方言)の記述を行い、その間の異同を明らかにした。付属語のほとんどがアクセントをもたず文節がアクセント単位となること、複合語アクセントはその前部要素のアクセントと一致すること、派生語と活用形はAないしBで一貫すること、したがって関連語彙が同一のアクセント系列で繋がることが共通する。一方、その音調型は相互に著しく異なる。言い切り形/接続形の区別も、枕崎方言と黒島方言がこれをもつのに対して、鹿児島市方言にはこれがない。私の言う「拍」も、鹿児島市方言と枕崎方言は音節であるのに対して、黒島方言はモーラであるという違いがある。ただし、後者においても文節末位以外では重音節は上昇・下降の曲調を取ることができないという制約があり、それが複雑な音調型の指定に深く関わっている。


渡邊 績央「『[対象] ガ~テイル』構文について」

本稿では通常ならヲ格で示される対象がガ格で表示され、述語がテイル形である構文(「[対象]ガ~テイル」構文)について扱う。まずその特徴を記述した上で、次の二点を示す。(i) テイル形述語が進行相を表さないこと、より根本的には述語の状態性がある程度高いことが必要であること。(ii) テアル形との形態的な類似性によって、結果相の否定形で使われやすく、肯定形では使われにくいこと。


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