by hkum

言語学論集25号 論文要旨


安達 真弓「ベトナム人児童による日本語の語順の習得」

本稿では、ベトナム語を母語とする児童3名に対する16ヶ月間のインタビュー調査を通して、日本語の語順の習得における母語の影響について考察した。その結果、文中の動詞の位置には母語の影響が現れにくいが、所有関係を表現する名詞句の内部構造(N1のN2)には母語の影響が現れやすいことが明らかとなった。


蝦名 大助「スペイン語クスコ方言(ペルー)における3人称目的語代名詞cliticの使い分けに関する一考察」

スペイン語では、目的語代名詞cliticに人称・性・数による区別がある。さらに標準スペイン語では、3人称目的語代名詞cliticに、直接目的語に対応するものと間接目的語に対応するものとの区別がある。しかしスペインでは、直接目的語が人間男性の場合、標準語では間接目的語を表すcliticを用いる用法が見られる。この現象はleísmoと呼ばれる。leísmoはラテンアメリカ・スペイン語には見られないとされているが、クスコ方言には類似の現象が見られる。ただしクスコ方言の場合、人間男性だけでなく人間女性についても、これが直接目的語の場合に間接目的語を表す形式を用いることができる点で、leísmoとは異なる。これとは別に、クスコ方言では、直接目的語が非人間の場合、男性・女性にかかわらず3人称男性直接目的語代名詞cliticを用いることができる。クスコ方言における代名詞cliticの体系は、性を区別するものから、人間・非人間を区別するものへと移行しつつあると言えるかもしれない。


薛 嘉蕙「台湾国語の"有"の意味 ―「完了」の用法について―」

台湾国語の"有"には、本動詞として「もっている」という意味で用いられるほか、助動詞として「完了」・「習慣」及び「状態」などの意味で用いられることがある。このうち「完了」を表す"有"については、先行研究では"了"の代用で同じ意味を表しているとされている。この分析に対し、本稿では"有"が限界性という意味を表さない点で"了"とは違うことを指摘する。"有"は動作主が発話時より前に行われた動作によってもたらされた状態にある、という話者の確認、を表している。


姜 英淑「韓国語の晋洲方言のアクセント」

本論文は、韓国の西部慶尚南道に位置する晋洲方言が、音節数にかかわらず4つの対立数をもつ4型アクセント体系であり、狭義のアクセント的な性質と語声調的な性質の二つの特徴を持つアクセント体系であることを述べる。またこの方言は現在も変化しつつあり、変化の途上にある4型体系であることをも指摘する。

複合名詞の結合においては以下の規則が働いている。

  1. Xが1-➀型の場合、Yが1-[0]と1-➁以外であれば-[2]型
  2. I以外はX決定型

河須崎 英之「中国黒龍江省で話されている朝鮮語のアクセント」

中国黒龍江省寧安市出身の朝鮮語話者の名詞・動詞のアクセント体系を記述する。

名詞については、n音節の語に対し、n+1の対立を持つ体系といえる。ただし、1音節語、2音節語ともに、処格助詞-eをつけた場合、音節構造によりアクセントが交替するという特徴が見られる。また2音節語については、単独でHLで現れる語は、主格助詞がついた場合も音節構造によるアクセントの交替が見られる。

1音節語幹の動詞は、語尾がついた場合のアクセント交替の仕方により、子音語幹で3通り、liɯl語幹で2通り、母音語幹で2通りに分類できる。

中期朝鮮語との対応を見ると、1音節名詞において対応が崩れていることが分かる。


長屋 尚典「タガログ語の好ましい指示表現 」

本稿では、タガログ語において、復元可能な指示対象に用いる指示表現に好まれるパターンが存在し、そのパターンが人称と主題の階層によって条件付けられていることを論じる。発話行為参与者は人称代名詞で表現される。一方で、三人称主題は人称代名詞で指示される傾向にあり、三人称非主題はゼロ照応あるいは指示代名詞で指示される。この選択パターンは、他の言語のそれと似ているが、異なるものである。タガログ語はタガログ語独自の指示表現のパターンを持っているといえる。この論文では、この指示表現のパターンがヴォイス現象やリファレンストラッキングに関わっていることも指摘する。


新永 悠人「言語音と音韻解釈」

無声摩擦音、気音(帯気音の息のリリース)、無声母音の3音がその音自体では区別不可能なことを示す。また、日本語話者が母音を添加して聞き取ると言われる語末子音(および子音の直前の子音)に母音と聞き取り得る音が存在する場合があることを示す。


孫 在賢「『訓蒙字會』のアクセント 」

本稿は、東京大学総合図書館所蔵本『訓蒙字會』の3,360漢字のアクセントとこれらの漢字に付けられている訓(釈)のアクセントについて計量的分析を行ったものである。この時期の本にはどのようなアクセントが出ており、そのアクセントにどのような単語があるか、またどのようなアクセントの出現率が高いかを調べた。付録に入力資料を提示し、全体の項目を見渡すようにした。


田添 暢彦「关于回辉话的tu24 ― 分析一个动词化的过程 ―」

回輝語は中華人民共和国海南省三亜市郊外の約6000名の住民によって使用されているオーストロネシア系の言語である。本論ではまず回輝語のtu24という語が、本来の動詞的用法のみならず、広範な介詞的用法を持つことを示した。次に、各用法をより一般化した形で文法標識としてのtu24の役割を提示した。また、介詞用法として用いられる場合の共起制限に、被制御性が関与していることを指摘し、被制御性の低いものがN2として許容されることを契機としてtu24の用法が拡大したと結論付けた。


上野 善道「沖永良部島方言語彙のアクセント資料(5)」

本土方言用のアクセント調査語彙だけでは、語彙が大きく異なる琉球方言のアクセント体系を明らかにする上で限界がある。それを補うための一手段として、方言語彙が豊富に載っている地方方言集の活用が考えられる。その一つの実践を鹿児島和泊町皆川方言で行っているが、そのアクセント付き資料提示の最終回としてマ行以降を扱う。


許 永新「日本語における介在性構文と行為者の脱焦点化」

日本語では、「僕は髪を切った」など多くの他動詞文において、実際の行為者は主語である「僕」でなくても成立する場合がある。本稿では、このような構文を介在性構文と呼び、その成立条件を探ってみた。


吉田 浩美「イスタンブルのユダヤ・スペイン語によるテキスト『40人の兄弟』」

本稿は、ユダヤ・スペイン語のテキストに文法的注釈および現代スペイン語と英語の対訳を付したものである。現代スペイン語と比べると、語彙の面ではトルコ語やフランス語をはじめさまざまな言語の影響を受けていること、また中世スペイン語的な古い要素を残していることがわかる。ほかに、現代スペイン語と異なるいくつかの動詞迂言形および分詞構文について言及する。


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