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言語学論集26号 論文要旨


三村 竜之「デンマーク語アルファベット関連語彙の音韻論」

一次資料に基づき、デンマーク語におけるアルファベット関連語彙(頭文字語、頭文字複合語、頭文字による省略を含む人名)の音韻論的記述を行う。強勢の型や各音節の母音量、stød(声門化)の有無に着目し、頭文字語全体の音形が、文字数や文字の種類などの情報からほぼ規則的に導かれることを主張する。さらに、頭文字語を構成要素とする複合語や、頭文字による省略を含む人名も、頭文字語単独形の音形を基礎として、全体の音形が原則的に予測可能であることを主張する。


シコヴスキ ロバート「西グリーンランド語の動詞パラダイムにおける類推移転と類推水平化」

他のエスキモー語と同様、西グリーンランド語の動詞パラダイムは豊富であり、典型的な動詞は法(8つ)と人称(自動詞の場合はsubjective、他動詞の場合はagentiveとobjective)を標示する。法マーカーが後続の人称マーカーを制限し、人称マーカーがお互いに依存しあい、融合することも多く、その結果として動詞体系は共時的に相当不規則的となっている。

本稿では、contemporativeにおける類推移転、causative・habitual・conditional・interrogativeにおける類推水平化といた、最近起こったためまだ記述されていない類推的現象を提示したうえで、それらの存在がどのような言語モデルを支持するのかについて概括的に考察する。


鈴木 博之「チベット語中路[sProsnang]方言の/r/を含む子音連続」

本稿では、四川省甘孜藏族自治州丹巴県で話されるカムチベット語の一種「二十四村方言」に属するsProsnang(中路)方言に見られるわたり音rを含む語について、まずその口語形式を整理して、チベット文語との対応関係を考察し、足字rに対応するものと来源不明のものとに分ける。加えて他のチベット語方言の例からわたり音rを含む形式を対照し、sProsnang方言の形式を特徴づける。


内原 洋人「チェロキー語オクラホマ方言における有気子音」

チェロキー語の有気子音(Ch)はLaryngeal Alternation規則及びLaryngeal Metathesis規則に対し多様な振る舞いをみせる。この振る舞いの違いを基に、本稿では以下の三点を主張する。第一に、有気子音の多様な振る舞いを説明するに際し、Munro (1996)のごとく有気子音の音素化を仮定する必要はないことを示し、有気子音の振る舞いの違いはむしろCh連続が/h/音に先行されるか否かに起因することを主張する。この主張の当然の帰結として、Scancarelli (1987: 26-27)の主張とは異なり、チェロキー語の有気子音は必ずしも/h/音に先行されるわけではないことが導かれる。これが第二の主張である。第三の主張は共鳴音(R)+/h/の連続にのみ関わる。先行研究ではR+/h/の連続は/h/に先行された共鳴音(hR)と/h/に後続されたもの(Rh)の対立を持たないとされてきたが、本稿では、音韻レベルではこれらは対立することを指摘する。


内海 敦子「タラウド語の基礎的形態論」

本論文はインドネシア国スラウェシ島北部州のタラウド諸島で話されているタラウド語のサリバブ方言の形態を分析し、まとめたものである。音声・音韻・形態音韻の各側面も簡潔に記述した。タラウド語はフィリピン諸語と近い関係にあるサギル語グループのひとつの言語である。他の多くのオーストロネシア諸語と同様、形容詞と動詞はよく似た形態的特徴を持つが、本論文では両者を別々の品詞として設定した。それは第一に、形容詞がテンスの対立を持たないのに対し、動詞にはテンスを必ず付与しなければならないこと、第二に、形容詞は単独の形しか持たないのに対し、動詞はいくつかの態を取りうること、第三に、両者が取る接辞や形態的変化が異なることが理由である。Reduplicationも多くの役割を果たす。


上野 善道「録音資料に基づくアクセント調査:香川県伊吹島方言の場合」

香川県伊吹島方言のアクセントについて最初に報告した妹尾修子(1966)・和田實(1966)の調査録音テープが残っている。発表されたのは調査のごく一部だけであった。中井幸比古(2001)は、その録音資料を聞き取り、未発表の多数のアクセントを表記したものである。本稿は、中井の報告のうち、最年長話者の音調の聞き取りについて若干の私見を述べ、同時に、同じ項目について行なった、それに続く世代の2人の話者のアクセント資料も提示する。併せて、録音資料によるアクセント調査の注意点についても述べる。


渡邊 績央「日本語の難易文」

本稿は現代日本語における、動詞に「やすい」などが接続した述語を持つ文、本稿で言う「難易文」について、その全体像を描き出すことを目的とする。まず第1節では、難易文の定義を行った上で、先行研究を参照しつつ、難易文の両極として「可能難易文」と「生起難易文」という二つの分類を提案する。第2節では可能難易文の意味的特徴と統語的特徴を検討し、第3節では生起難易文の意味的特徴と統語的特徴を検討する。第4節では可能難易文と生起難易文の中間に位置すると見られるタイプの難易文について検討し、更にそれを通して可能難易文と生起難易文の連続性・共通性について考察する。最後に第5節では、以上で検討してきたことを踏まえて可能難易文から生起難易文に至る、難易文のつながり・全体像を描き出すことを試みる。


ローザ マーク「カイダー語辞書」

カイダー字という象形文字が使用されたのは主に沖縄の与那国島と竹富島であった。言語を完全に表すのではなく、主に数量や所有関係を表すために、人頭税の時代に記録として使われたもので、いわゆるpartial writingの一例である。

音声を示す仮名文字もある日本語の表記によってカイダー文字は衰弱させられたが、二十世紀前半まで使用されたカイダー文字の知識を持つ人が数人まだ生きている。今まで現地の発音も含む完全な記録が存在しないため、本辞書を作成した。これは八重山の言語と文化を守るために役に立つと思われる。


孫 在賢「韓国語三陟方言のアクセント資料」

韓国語江原道三陟方言のアクセント調査の第1報として、単純名詞1128語のアクセント資料を中期朝鮮語のアクセントとともに報告する。


田添 暢彦「回輝語の民話『将棋を指す仙人』」

2002年3月から6月、2006年2月から3月に行った現地調査で得られた回輝語による民話のテキストを挙げる。まず、回輝語の概要、本論で用いる表記を説明した後、テキストに日本語による逐語訳と文訳を付したものを示し、漢語との相違に留意しつつ、テキストに見られる回輝語の特徴を挙げた。


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